2014年3月24日月曜日

FIMのレギュレーションを原文で読む 2

1年半ぐらい前のエントリーで、FIMのレギュレーションを原文で読む ってのを書いたのですが、今朝のMoto2における中上さんの失格騒動を受けて、続きを書いてみます。


前回もご案内したように、レギュレーションはこちらからチェックできます。
http://www.fim-live.com/en/fim/fim-official-documents/

今回話題のMoto2含む、MotoGPのレギュレーションはこれです。
2014_FIM_MotoGP_World_Championship_Regulations_(bilingual).pdf (PDF注意)


今回問題になっている、Moto2のエアフィルターに関する記述ですが、以下のようになっています。


問題の箇所は 2.5.3.6 フューエルシステムの 10項。

以下、訳
2.5.3.6
10)エアボックス:オフィシャルサプライヤによって供給される、標準のエアボックス(エアフィルター、セカンダリインジェクタ含む)のみ使用することができる。以下の2.5.3.6.11で記述された場合をのぞいて、許可されたエアボックス以外は、改造、変更、または追加することは出来ない。

とあります。

この項目の注目ポイントは、通常禁止されている強い口調の場合は"not permitted"(許可されない)とか、"must be used"(使用しなければならない)などと表現されるのですが、ここが"may be used"(使用できる)と書かれているポイントだと思います。

しかしこれは、文頭の"Only"を受けるので、オフィシャルサプライヤから供給されるエアボックス「のみ」使用ができる、という意味で事実上はそれ以外の物は使用禁止であることとイコールであると考えるべきなんだと思います。

そういった意味では、その後の文章「許可されたエアボックス以外は、改造、変更、または追加することは出来ない」、これも重要です。
ここではエアボックスの定義を「エアフィルター、セカンダリインジェクタ含む」としているわけですから、やはりオフィシャルサプライヤ以外の部品は使用できないという解釈になります。



2014年2月27日木曜日

bimotaはWSBK参戦の夢を見れるのか?その2 (WSBK車両公認ルール変更)

このページに直接来た人は、その1がありますので、まず最初にこちらを御覧ください。
bimotaはWSBK参戦の夢を見れるのか?その1 (WSBK車両公認ルール変更)


では、この2014年の新しい車両公認ルールの変更点を見て行きましょう。


まず、従来(2013)のルールの確認ですが



2.1序章の部分には 
アメリカ、EU、日本のどこかで公道走行用の認可を受けた車両である必要がある。車両は上記の普通の店で販売されなければならない。
少なくとも3戦目までに販売が始まらない場合は以降のレースには使用できない
と書いてある。(要約)


 また、別の章には以下のように書かれています


製造者が車両の公認を請求できるのは以下の場合:

・車両公認手順の開始時に、少なくとも125台が生産されていなければならない。車両は一般に販売されていなけねばならない。
・最低でも500台が6/30までに製造されなければならない。
・最低でも1000台がその年の12/31までに製造されなければならない。
・最低でも2000台が次の年の12/31までに製造されなければならない。

とあります。


2014年の車両公認ルールと比較すると、

・製造された車両の販売に関わるルール→撤廃
(もしかすると記述されていないだけかもしれないが…)
・第3戦までに販売が開始されない場合は、そのシーズンに参加できない→撤廃
・車両公認手順の開始時に、少なくとも125台が生産されていなければならない。車両は一般に販売されていなければならない。→125台の変更はないが、販売の条件が撤廃
・最低でも500台が6/30までに製造されなければならない。→撤廃
・最低でも1000台がその年の12/31までに製造されなければならない。→変更なし
・最低でも2000台が次の年の12/31までに製造されなければならない。→撤廃


大きくまとめると、従来は連続した2年間に2000台の製造が義務付けられていたが、それが1年間で1000台に緩和。販売に関する条項が撤廃…

つまり、シーズン途中での生産台数チェックの縛りが無くなっているから、とりあえず125台作っちゃえば、少なくともそのシーズンは参加できるってことですね。
年末までに1000台作れない場合にどうなるのかはわかりませんが…

これは、EBR(エリックビューエルレーシング)の参戦を可能にし、bimotaなどの少数生産メーカーへの門戸を再び開くことになるのでしょう。

また、DUCATIの過去のモデルに合ったような、お金を掛けた限定モデルの登場の可能性も増えると思われます。



bimotaはWSBK参戦の夢を見れるのか?その1 (WSBK車両公認ルール変更)


1/13の朝に突然、bimotaのWSBK参戦のニュースが発表されました。

チームは、昨年1199RSを走らせて良い結果が出なかった、ALSTAREレーシング。
こちらが公式サイトです。
http://alstare.com/page/all_articles/61/

プレスリリースによれば、ライダーは昨年このチームから1199でSBKに参戦したアイルトン・バドビニと、昨年MV AGUSTA F3でSSにParkinGo MV Agusta Corseから参戦していたクリスチャン・イドンの二人。

ParkinGoのスポンサードを受ける予定であるとのこと。

ただ、気になるのは最後の一文

* subject to approval of Homologation by FIM and its members
(FIMとそのメンバーによるホモロゲーションの承認が必要)

と書かれています。


その前に、bimotaのBB3が公認車両になる可能性について考えてみます。


FIMのサイトに行くと、英語とフランス語のみではありますがレギュレーションの原文を確認することが出来ます。
詳しくはこちらの、過去のブログエントリーで…
FIMのレギュレーションを原文で読む

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と、ここまでblogを書きかけて放置してあったのですが、大きな動きがありました。

2014/2/22付けで発表されたプレスリリースですが、WSBKコミッションの過半数の賛成で車両の公認ルールが変更されたとのことです。
原文リンク(PDF)
http://www.fim-live.com/fileadmin/alfresco/2014_FIM_Superbike_World_Championship_-_New_homologation_procedure,_22_February.pdf

ちなみに、現時点で発表されている公認車両リストには、bimotaのBB3は含まれていません。
原文リンク(PDF)

当然のことながら、第1戦のフィリップアイランドには参加していません。


この新しい公認ルールをざっくり翻訳しました。
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FIMスーパーバイク世界選手権

新しいホモロゲーションの手順

FIMは、スーパーバイクコミッション内の過半数によって、新しいホモロゲーション手順が承認されたことを発表します。

これは、オートバイ業界と世界市場の現状を考慮し、公認に必要な条件に関するものです。

新たな規制の主な影響は、生産される車両の合計必要数に関連しています。

・ホモロゲーション手順を開始するための単位の最小台数は125台となる。
・参加の最初の年の終わりには、生産台数が250台に達する必要があります。
・参加の二年目の終わりには、生産台数が1000台に達する必要があります。

スーパーバイクコミッションは、上述のように製造台数の最小数を制御し、競争の公平性を保証するために密接に各メーカーの生産計画に従います。

スーパーバイクコミッションは、WSBK選手権のオーストラリアで開催される初戦のフィリップアイランド戦で、新しいルールや議論をさらなる改良を検討している。

 詳しい説明は、数日中にFIMのウェブサイトで更新される、WSBK技術規則2014の中に含まれています。
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最後の一文で、詳細はWSBKのレギュレーションに書いてあるとありますが、現時点でリリースされているレギュレーションには、車両の公認に関連する事項が一切書かれていません。しかも、表紙がない体裁はドラフトっぽく、改訂版がリリースされることも予告されています。

2014WSBKレギュレーション 初版(PDF)


長くなったので続きます…

2014年1月14日火曜日

DUCATIのレーシングバイクに搭載の可変フォークオフセットの解説(その2)

その1からの続きです。
直接ここに飛んできた人は、まずこちらを先に御覧ください。
DUCATIのレーシングバイクに搭載の可変フォークオフセットの解説(その1)



749Rの様に、偏心カラーでは2箇所にしかフォークオフセットが設定できないのですが、916Racingに採用された可変フォークオフセットシステムは、25~31mmまで連続して可変できる非常に凝った作りになっています。

構成図と構成部品は上記のとおりなのですが、これだけ見てもなんだかわからないですよね。
簡単に説明すると、偏心カラーが2重になっているということなんです。

でもわからないと思うので、もう少しわかりやすい解説を作ってみました。
(自分の理解のために作ったのではありますが…)

6番は、キャスタアングルを変更するようのカセットなので、フォークオフセットの可変には関係ありません。これは、市販の916~999に付いているものと基本的に同じです。

このシステムのキモは8と9番の部品です。
それぞれのパーツが1.5mm偏心しています。

これを組み合わせることによって、25~31mmのオフセットが変更できます。(実際には連続的に変更できますが、細かい調整が必要なので0.5mm単位で調整するように目盛りが用意されています。)

まずは計算上の数値








わかりにくいかもしれませんが、エクセル上で数値のシミュレーションです。

例えば、今フォークオフセットを26mmに合わせたいとします。
上下フォークブラケットは、28mmのオフセットで作ってあります。

ステムシャフト⑨を48.3°回転させます。そうすると前後方向は1.0mmオフセットが少なくなる方向に移動しますが、横にも1.12mmずれてしまいます。なので、オフセットカラー⑧を反対方向に48.3°回転させると、前後方向に更に1.0mm、左右方向はステムシャフト⑨で移動した方向とは反対に1.12mm移動し相殺されます。
トータルで見ると、28mmのオフセットから2mm短くなります。

こうすることによって、フォークオフセットが可変します。下図も参照













フォークオフセットを28mmから増やしたい場合は、反対にすればよいのです。

実際の調整はこんなかんじで行います。



こんな感じで、ご理解いただけましたでしょうか?

ご意見、ご質問などはtwitterでもお気軽にどうぞ
@DUCATI_MANIAX

DUCATIのレーシングバイクに搭載の可変フォークオフセットの解説(その1)

DUCATIの市販レーサー、◯◯Racingとか◯◯RSとかいう名称のバイクには、1997の916Racing以降、1198RSまでに標準装備されています。

これは、トレール変更を狙ったもので、フォークオフセットが25~31mmまで連続的に変化することによって、トレール量が96.6~109.2mmまで変化させることが出来ます。

これはキャスタ角とは異なるもので、フォークオフセットとトレール量の関係は以下の図の通りです。(キャスタ角を変えてもトレール量は変化しますが、今回はとりあえず置いておきます。)

一番簡単なパターンから見ていこうと思いますが、749Rには実は可変オフセット機構がついています。(市販車では変更できないようになっていますが)

916~1198までのDUCATIのスーパーバイクは、すべての車両でフォークオフセットが36mmになっています。
ですが、レースで使用するためには36mmのフォークオフセットはあまり適していません。SBKであれば、ステム周りをまるごと交換してしまうので問題がありませんが、スーパースポーツに参戦していた749Rでは最初からシステムが組み込まれています。



















アンダーブラケット/アッパーブラケットは33mmのオフセットで作ってあり、中のオフセットカラー(上図の赤色)が3mm偏心しています。
この偏心カラーを、前後2ポジションにセットすると、それぞれ 33+3=36mmと 33-3=30mmの両方が選択できるのです。

上図の解説は、キャスタの変更も合わせて書かれているのでちょっと複雑ですが…

ただし、749Rのこの機能はハンドル切れ角も合わせて規制しないとラジエターとか周辺パーツにぶつかるので、市販車の状態では使用できないようになっています。
ステアリングストッパーが別部品なのはそのためです。


その2に続く…
DUCATIのレーシングバイクに搭載の可変フォークオフセットの解説(その2)